3回目、最終報です。
1回目[LINK]と
2回目[LINK]も合わせてお読みください。
貧困国におけるAIDS治療の為の医薬品供給の問題です。
本blogでは、一貫して製薬企業を擁護する立場を取ってきました。
新薬のパテントは確かに薬価高騰に繋がりますが、利益主義的な観点からライセンス料は発生するものではない、と考えるからです。
これについては、
経済産業研究所[LINK]のフェローである中山一郎氏が、
こちらの記事[LINK]で実に明快な意見を出されています。
ペニシリンは、20世紀最大の発明ともいわれるが、第2次世界大戦中に生産を始めた米国の企業が生産技術に関する特許を取得したため、当時は多額のライセンス料を支払わなければ当該技術を利用できなかった。ところが特許権が消滅した今日では、誰でも自由に当該技術を利用してペニシリンを生産することができる。つまり、
今日我々がペニシリンの恩恵を享受できるのは、当時多額のライセンス料が権利者に支払われたおかげであり、また、
特許制度の下でそのような形のリターンが確約されるが故に、製薬メーカーはリスクの高い新薬開発に手を伸ばすことができるのである。このように考えると、特許権の保護を弱体化させて新薬開発に向かうインセンティブを低下させてしまっては、新薬開発が進まず、結局、「長期的には我々はみな死んでいる」ことになるかもしれない(特にHIV/AIDSのように現在有効な治癒方法が確立していない疾病の場合、新薬開発の重要性は論を待たない)。
さすがプロフェッショナルの意見。
ライセンス料というのは利益を上げるためだけではなく、
「次の一歩」を踏み出すためのドライビングフォースである。
それを否定することは当該産業の停滞を招く事になる、と。
ただ、だからと言って貧困国のHIV感染者を放置すれば、それもまた「長期的にはみんな死んでいる」とも言及されています。
そういう現状だからこそ、
我々の知恵が試されている、と。
AIDSの医薬品供給には諸問題ありますが、大切なのは
医薬品の値段だけが問題ではないということです。
現在、抗HIV薬として用いられる医薬品を調べますと、そのうちの幾つかは「遮光・吸湿注意」であり、プロテアーゼ阻害薬の多くは「冷所保存」です。具体的にはドライボックスと冷蔵庫が必要、ということです。
果たして
貧困国にこれらの保管条件を有する人がどの程度いるか、はなはだ疑問です。
つまり、医薬品供給のインフラも整備する必要があります。
しかし、現状として視野がライセンス料に限定されすぎているのではないかと言う危惧はもっともで、前述の記事においても、
「HIV/AIDSの蔓延が深刻な問題だとしてもそれは特許だけの問題なのか」「医療専門家・医療施設等のインフラ不足、情報格差等貧困がもたらす諸要因の総合的解決が必要なのではないか」「問われているのは、HIV/AIDS撲滅に向けた国家意思ではないのか」これらは筆者が本年7月に訪米した際に聞いた特許弁護士等の声である。中でも最も印象的だったのは、次のような言葉だった「
特許がスケープゴートになっている」。
と述べられており、高い薬価でその他の問題に盲目的になってしまっているということです。
そこで、この問題に対する私なりの回答を考えてみました。
まず、
医薬品のライセンス料は不可侵であるべきだというのは一貫して変わりません。
ドーハ宣言のような暫定的処置は、恒久的になってはいけないのです。
今なすべき事は、
いかにしてインフラを整備するか、だと思うのです。
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