命と薬と思想の価値(2)
2006-05-09


さらに言えば、候補化合物探索やラボでのデータ収集も外注可能だし、治験はそもそも病院に外注するようなものです。
つまり、製薬企業はビルの一室でも運営可能になったので、ベンチャー企業が進出する余地も十分あります。



さて、このカラムの最初に話を戻しますと、安定した生産体制が求められる事に触れました。
製造部門の話というのは、もちろん工場、場合によってはアウトソーシング先の話です。
薬事法の言葉で言えば、製造業者と言います。
製造販売業者と製造業者。
非常にややこしいのですが、前者が販売元で後者が製造元です。
製造業者はもちろん許可制で、その要件となるのがGMPです。
これは実際の製造だけではなく、その前に”安定した生産体制”であることを保証するためのデータ収集も含みます。
ラボなんかじゃなく実際の工場生産レベルでの検証となるわけですから、結構な費用が掛かります。
雑に言えば、工場というでっかい実験室で製造の研究とデータ収集を行っているのです。
そしてそれが必要だと言う事が薬事法で規定されています。



ちょっと寄り道したような論調でしたが、医薬品製造販売の概要は見えたと思います。

医薬品の元を研究するラボ。
医薬品を製造する製造業者(工場)。
臨床試験を行う病院。
そして総括する立場の製薬企業。

繰り返しになりますが、パテント保有者は製薬企業です。

「有効成分を見つけたラボではないのか?」とも思えますが、医薬品は有効成分があればいいというものではありません。
有効成分の投与量の決定、剤形の検討、いろいろやる事はあります。
そして有効成分を見つけた後の作業も尋常じゃないレベルなので、単にラボの手柄ではありません。
もしそれを言うなら、生産検討を行った製造業者にも、治験を行った病院にも権利はあるという話になってきます。
ラボが特許を出願する可能性があるとすれば、”有効成分”でしょうか。化学物質として出願されれば受理されるかも知れません。その際のライセンス料の流れはどうなるのかな・・・。
もっとも、実際には製薬企業がラボを持っていることが殆どですから、そのような問題は起きないのではないかと。
(大学研究室との共同開発はあるでしょうが、せいぜい有効成分止まりだと思います)

なにより大切だと思うのが、パテントを取る事はその製品に責任を負う事だと思うのです。
医薬品の事で言えば、製造販売業者に課せられる品質管理と製造販売後安全管理を全うしなければ、当該医薬品の最高責任者ではない。


そこで思い出されるのが、薬の開発の一本化[LINK]の話です。
この意見の重要な点は、「医薬品のパテントは有効成分発見者が有する」という仮定に基づくものである事です。
残念ながら、現状としてはそういうわけではありません。
可能性を見出そうとすれば、「全ての医薬品の製造販売を国営化し、その他を一般企業に入札させる」というカタチになるでしょうか。
しかし、国が品質管理や製造販売後安全管理を、全ての医薬品について行うことは不可能です。
厚生労働省は医薬品の審査業務がありますので、医薬品開発や製造販売と並行して行うことは職業倫理上よろしくないですし、そもそも人が足りません。
最初から医薬品開発を国の専売だというならともかく、現状から移行する事は、残念ながら非現実的です。

現在、多くの製薬企業が切磋琢磨しながらよりよい医薬品を目指して開発を行うというスタイルは、医療の発展のためには良いのかもしれません。



新薬開発というのは、綱渡りみたいなものです。
歩いていく先の保証は無く、進めば進むほどダメだったときのダメージは大きい。

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